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日々の記録

『サマータイム』

 「サマータイム / 佐藤 多佳子」

空港の長い待ち時間に読んだ『サマータイム佐藤多佳子』がとても良かった。この本、小学生か中学生の頃に読んだことがあると思う。先日なんとなく古本屋で手に取って購入したのだけど、たぶん2回目な気がする。1回目に読んだとき、私はどんな気持ちでこの本を読み終えたんだろう。大人になった今それぞれの登場人物の気持ちが分かるようになって胸が締まっていく感覚がした。大人になって読むことにまた特別な意味がある。「ひりひりして、でも眩しい、あの夏」「友情じゃなく、もっと特別な何か。」誰でも持っているような特別な大切な記憶が詰まっていて、私も私自身の特別な夏を思い出して浸った。

特に好きなのが「ホワイト・ピアノ」。14歳って、自分ではもう大人だと思っているのに、周りの大人は大人扱いしてくれなくて、だけど心は大人へ向かっているから空回りしたりして。そうやってでも暮らしていけるのは周りの大人の寛容な心のおかげなのかも。

私たちが準備のために飛びまわっていると、センダ君が通りかかり、細い目を細めて、ほんとに嬉しそうに私を眺めた。ピューと口笛を吹いて、小さな女の子にするみたいに腰をつかまえて抱き上げようとするので、私は暴れた。

「離せっ」

こいつ、ひっぱたいてやろうか。

「マイ・フェイヴァリット・シングス」

センダくんは。まったくノンキ。

「なによッ」

私の喧嘩腰がわからないの?センダくんは英語の歌を口ずさんだ。

「歌だよ。知らない?『マイ・フェイヴァリット・シングス』—私のお気に入り—サウンド・オブ・ミュージック』でジュリー・アンドリュースが歌ったの。ガールズ、イン、ホワイト、ドレッシス、ウィズ、ブルー、サテン、サッシュズ—ブルーの飾り帯の白いドレスの女の子たちってね」

「それが、どうした?」

「佳奈ちゃんみたいじゃん。好きなんだよ。この歌。サラ・ヴォーンも『アフター・アワーズ』で歌ってるんだ」

 センダくんは優しくて、お人好しで、きっと素敵な人なんだけど、やんわりと大切な人やものが多すぎて、本当に失いたくないものを手放してしまいそうな人だから読んでいて苦しい。センダくんみたいな人と出会ったことがあって、佳奈とセンダくんのような関係でいたことがあったから尚更かもしれない。私にも特別な夏があって、それはずっと大切なまま変わらず。綺麗なままで残していたい。