手荷物の重みを命綱にして通過電車を見送っている / 枡野浩一
「死にたくないのに、大人になってから死にたくなる日がある。」と言う友人。
夏休み、好きな人が電話をくれた朝の幸福。
父と見た金曜ロードショー。
花火大会の帰り、満員電車が嫌いだからって歩いたこと。
消灯後に友達と食べたアイスクリーム。
タバコの煙を隣から纏って、生まれてはじめて見た流れ星の一瞬。
帰省を選ばなかった8月。
2日前に始めた引越し準備と夜更かし。
兄の優しさ。
「一人なら どうにでもなる」「もうダメになった時は消えればいい」そんな言葉をお守りにして生きている。消えたくなったときに消えられるように、爆破装置を抱えながら、手にはいつもスイッチを持っている。特別に不幸なわけじゃない。けれど、ふと消えたくなる。寂しいのか、悲しいのか、幸せなのか。誰だって地獄を抱えて生きていることを信じているのは、地獄を抱えて生きている側の人間だけ。
今日、東北は悪天候だとニュースが伝えていた。美しい青春の青空だったけれど、私は今日も死にたいかもしれないと思った。日差しが痛くて目に見えるもの感じるもの全てが、死に誘っているかのような灼熱。
次回予告「リボ払い人生」